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東京高等裁判所 昭和45年(ネ)1032号 判決

控訴人 玉木英治

被控訴人 湯川洋蔵

右訴訟代理人弁護士 上野久徳

同 木戸口久義

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は「原判決中控訴人の敗訴部分を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張及び証拠の関係は、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する(但し原判決八枚目表八行目の「約定利益」とあるのを「約定利息」と訂正する)。

理由

当裁判所もまた、原判決と同様、被控訴人の本訴請求は、原判決認容の限度において正当としてこれを認容すべきものと判断するものであって、その理由は次のとおり付加訂正するほかは、原判決の理由と同一であるからこれを引用する(但し原判決一〇枚目表七行目の「貸付を受け」の次に「る」を加える)。

(一)原判決九枚目表三行目(一)の次に「控訴人は本件各手形は訴外不動信用金庫(以下訴外信用金庫という)の被控訴人に対する預金払戻債務の支払保証の目的で振出されたものであることを前提とし、その附従性につき主張するところ、右前提事実に関する限りこれにそう原審における証人井戸川勝英の証言及び控訴人本人尋問の結果は後記認定の事実にくらべて直ちに採用できず、成立に争ない乙第一号証によってもまだこれを認めるに足らず、その他に本件手形が単なる保証手形であることを認めしめるに足りる的確な証拠はない。かえって」と挿入する。

(二)同一一枚目裏六行目から一二枚目表七行目までを次のように訂正する。

右認定事実によって考えれば、控訴人はすでに訴外信用金庫の倒産により被控訴人の預金金額の回収が事実上不可能であることが明らかとなった事情のもとにおいて被控訴人に対し被控訴人が訴外信用金庫からの預金回収不能によってこうむることあるべき損害を補填することを約し、借受金返済名義でその損害担保義務の履行を確保するため、本件(一)(二)の手形を振出したものと認めるべきであることが明らかである。従って成立に争いのない乙第二号証の三、原審における被控訴人本人尋問の結果、それに弁論の全趣旨をあわせると、被控訴人は昭和三九年八月ころ訴外信用金庫のその他の預金者とともに、右金庫及び中央信用金庫との間において、中央信用金庫は訴外信用金庫の預金者に対し預金額の二割を現金で支払い、その一割を中央信用金庫の期間一年の定期預金としてその旨の通帳を発行交付すること、訴外信用金庫の預金者は訴外信用金庫に対し、破産の申立、その他訴の提起、強制執行等をしないことを骨子とする契約を締結し、被控訴人は右約旨に従い、中央信用金庫から現金二〇〇万円の支払及び金一〇〇万円の定期預金通帳の交付を受け、その後右預金の払戻を受けた結果、訴外信用金庫の被控訴人に対する預金債務は金七〇〇万円となり、右債務は訴求することのできない債務となったことが認められるが、このことは前叙の趣旨で振出された本件(一)(二)の手形債務の効力に何らの影響を及ぼすものではないといわなければならない。されば本件(一)(二)の手形も保証債務の付従性により、その責任額が金七〇〇万円に減少し、かつ被控訴人はその支払を請求することができなくなった旨の控訴人の抗弁は失当である。

(三)同一二枚目裏三行目から七行目にかけて「その事実を認めるに足りる証拠はなく〈省略〉振出したものであることが明らかである。」とあるのを「右主張に副う前掲控訴人本人尋問の結果は措信できず、かえって前掲乙第二号証の三、証人井戸川勝英の証言、被控訴人本人尋問の結果によると、控訴人は昭和三九年三月九日当時破たんし清算状態にあった後藤観光株式会社を整理し、同会社代表取締役後藤文二が隠匿している会社財産を追求するために必要とする訴訟費用等にあてるため、被控訴人からあらたに金二〇〇万円を借用しその支払確保のため本件(三)の手形(原判決添付別紙目録(三)記載の手形)を振出したものであることが認められる。」と、同一三枚目裏三行目の「本件(二)の手形の満期日の翌日」とあるのを「本件(三)の手形の満期日の翌々日」とそれぞれ訂正する。

よってこれと結論を同じくする原判決は相当であり、本件控訴は理由がないのでこれを棄却することとし、控訴費用の負担について民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長判事 浅沼武 判事 小川泉 田畑常彦)

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